ベトナム・ライフスタイル

なぜいま、ベトナムで都市鉄道が作られるのか ―背景・特徴・展望から―

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※この記事は月刊エミダス(ベトナム版)の2020年3月号で掲載したインタビュー記事と同じものです※

今回は、ベトナム国内、特にハノイとホーチミンにおける大規模な鉄道開発計画について特集していく。

数年後の運行開始を目標に据えた計画は、国内外から様々な企業が参加し開発が進められ、運行開始のリアリティと市民の期待は日に日に増している。

そこで、本記事ではその鉄道開発が行われるに至った背景・規模・特徴・参加企業などの観点から、その現状・展望などを深掘りしていこうと思う。

ベトナムで年々深刻化する交通渋滞と空気汚染。それを解決する“最後の切り札”が、この鉄道開発計画なのである。

ハノイで生活していると、たまにこのような情景を目撃することがある。

『道路の側に、コンクリート製の謎の鉄柱がそびえ立つ。一本どころではなく、十本近く見えることもある。その上を見上げると、高速道路だろうか、25メートルほどの幅の線がどこかへと伸びていく。しかし、車が走っている気配はない』。

はて、昔使われていた何かだろうか――読者の方々にも、そのような疑問が浮かんだことはないだろうか。実は、これは数年後を目処に開通を予定している「大規模メトロ」の線路なのである。

この鉄道開発計画の詳細について語る前に、この投資が始まった歴史・背景を押さえておく必要がある。なぜならば、この鉄道計画には昨今ベトナムで話題となる「交通渋滞」と「空気汚染」が絡んでくるからだ。

実際、ハノイとホーチミンを結ぶ鉄道(いわゆる寝台夜行列車)は現在も運行されているが、ご周知のように、ベトナム内には公共交通機関としての路面電車・地下鉄等が存在しない。40年ほど前まではハノイで路面電車が走っていたが、「路線が市民生活の“目的”に適合していなかった(かつてのベトナム鉄道に関する記事より抜粋、原文は英語。おそらく「旧路線が人々の集まるロケーションとは離れていたことから利便性が低かった」という意味であろう)」という理由から廃止されてしまったのである。

それ以来の公共交通機関はバスのみとなり、実質的にはGrabもその役割を果たすこととなった。それらに加えて、経済成長と人口増加の影響であろうか、ここ十数年のトレンドとして、「バスよりも利便性が良く購入しやすい」という理由から、道路を走るバイクの数は年々増加し続けている。

その結果、多くのバスとバイクが起こす交通渋滞や大気汚染は規模を拡大し続け、社会問題であり続けている。事実として、交通渋滞による大気汚染はベトナムの世界に対するアピールにおいて大きなネックとなっている。2019年9月末には、大気汚染の程度を示す「大気汚染指数」において、ハノイが世界ワースト1位、ホーチミンも世界ワースト3位になったことがニュースとなった。健康被害も深刻なものがあり、空気汚染による呼吸器系疾患の患者も年々増加しているという。

ベトナム政府としては、一刻も早くこの問題を解決し世界にアピールしていきたい、というのが実情なのであろう。大都市内では交通渋滞を解消するために警察が路肩に立って車両を誘導することもあるが、その効果も正直イマイチといったところである。

そこで、これを解決するための“最後の切り札”として決定されたのが、この鉄道開発計画だったのだ。

 

想像を絶するホーチミンの鉄道開発。そこに立ち向かうのは我らが日本企業、そしてそれを傍から見ているのは……。

さて、まずはホーチミンから取り上げていこうと思う。

ホーチミン市地下鉄(Ho Chi Minh City Metro、以下「ホーチミン鉄道」)は1号線・2号線に分けられている。2019年の資料によれば、2020年末にテスト運行を初め、2021年には本格的な運用が始まる予定だという。

1号線は一部地下鉄を含んでおり、出発駅はホーチミン中央に位置し大規模マーケットがあることで知られる「ベンタイン」となる。そこから「ホーチミン市民劇場」などを経由しながら、終着駅となる「スオイティエン」まで、北東に向かって合計14駅・19キロ以上(地下区間2キロ・高架区間17キロ)にもわたる路線が完成する。終着駅にはバスターミナルを隣接させ、さらに遠くの地方へ行きたい人々はそれで移動するということになる。

2号線は同じく「ベンタイン」から出発し、そこから国際空港が位置する「タンソンニャット」などを経由し北西に伸びていく。最初は11駅のみの開通であるが、開発のフェーズは3つに分かれており、最終的にはなんと全長48キロにわたる巨大路線になるとのことだ。なお、終着駅にバスターミナルを設置するという点も第一号と同じである。

これらの路線を最終的に6本まで増やすことで東西南北へと自由にアクセスできる環境を整え、ともに交通渋滞を削減することで空気汚染を解決する。これが、ホーチミンメトロの大まかな全貌である。

さて、この鉄道計画にさっそく取り組みたかったベトナムだが、ここで彼らは大きな壁にぶつかることになった。

その正体は、「地質」である。

ホーチミンを地図で見てみると、大小の川がいくつもあることをご確認いただけると思う。この川が工事を妨げていた。先程の1号線は一部区間が地下鉄となっており、またその路線の近くにサイゴン川が流れている。工事現場を取材した日経ビジネスの記事によると「少し土を掘るだけで水が湧き出てくるほど地盤が軟弱」とのことで、また近くには基礎工事が不十分な歴史的建造物が並ぶなどし、地盤沈下などを防ごうとすることから思うように工事が進められない。ホーチミンにおける地下鉄開発は、想像を絶する難易度だったのである。

万事休すか――そう思った時、救世主が現れた。それこそが、我らが「日系企業」だったのだ。

このホーチミン鉄道には、住友商事・清水建設・前田建設興行・日本工営・日立製作所など名だたる大手日系企業が「共同企業体(JV)」などの形で参加し、舵をとっている。専門分野や担当箇所は企業などによって若干異なるが、これらは主に下物(トンネルや高架などの土木構築物分野)を管轄し、先程説明した難所の開発を中心的に行っている。

例えば、日本工営は国内企業5社・現地企業2社の共同企業体を率いており、シールド工法(シールドという特別な鋼鉄の筒を使い、周囲の土砂の崩壊を防ぎながらブロックを組立、トンネルを構築していく方法)を用いてトンネルを開削したり、鉄道の車両・運行システムの技術を提供しているとのことだ。この工法では地盤沈下を防ぐことができるため、シールド工法を得意とする日系企業にはまさに「もってこい」の現場というわけだ。また、住友商事は高架土木・車両基地の工事を担当しており、デザインビルド(ベトナムが本来行う詳細設計を住友商事が担い、設計や施工を一貫して行う)での開発が進められている。デザインビルドには高度なマネジメント力が必要となり難易度が高いという特徴があるが、「日本企業ならそれをこなしてくれるはずだ」というベトナムの期待感も、今回の受注に繋がっているはずだ。

日本企業としても、その期待にはプライドをかけて応えねばなるまい。開発途上国のインフラ開発は、国のメンツをかけた戦いでもあったのだ。

さて、ホーチミンの鉄道開発にはもう一つ注目点がある。それは意外にも、中韓企業の存在であった。

元来、製造業界では「技術を優先するならば日本、コストを優先するならば中国・韓国」という図式が成立していた。しかし、昨今の建設業界内では「中韓でも一部の企業の技術力は非常に高くなっている」と警戒心を露わにする声も上がっているとのことだ。実際、鉄道計画と並行し進められている「南北高速道路(ハノイとホーチミンを結ぶ開発中の高速道路。全長は1300キロ以上に及ぶ)」においては、先程のような難工事ではない区間を中韓企業が受注している。インフラ開発は品質にこだわっても、その差は長期的にみないと分かりづらいため、目先のコスト面での優位性が目立ってしまうのだという。そのような数々の現場で力をつけた中韓企業が技術力を発揮し、インフラ投資市場に侵攻してくるのは当然の流れだろう。日系企業と同じ技術力を中韓企業が発揮するようになった場合、もちろん発注側はコストの低いほうを選ぶのが自然だ。その際、日本はどのような部分で勝負していくのか。ベトナム内のみならず、その対応は今後日系企業の問題となってくるところであろう。

 

ハノイ鉄道における最大の話題は「延期」。もはや、「期待」よりも「混乱」の方が大きいのではないか?

交通渋滞・大気汚染を解決するため、2007年3月、JICA(国際協力機構)は「ハノイ市総合都市開発計画調査」を実施し、2020年を目標としたハノイにおける都市開発計画を策定した。その計画内では、ハノイ市中心部から半径40キロの周辺に鉄道路線を整備し、最終的に8路線を統合させることでサービス圏を構成しようとしている。また、18年に発表された新たな計画案では、2050年までにハノイにおける都市鉄道を10路線までに拡大する予定とのことだ。なお、鉄道サービスの圏外では路線バスがその役割を担い、地方民への追随サービスを行う予定だ。

いまハノイ都市鉄道(Hanoi Metro、以下「ハノイ鉄道」)において主に開発が進められているのは「2A号線」と「3号線」である。それぞれ解説していく。

「2A号線」は、ホーチミン嘲と国立映画センターの中間のあたりに位置する「キャットリン」から出発し南東へ伸びていく路線だ。19年冬にイオンモールが開業されたことでも知られる「ハドン」などを通過し、終着駅となる「イェンギア」まで約13キロ・計12駅という構成になる。なお、この開発はCREC(中国中鉄)という企業が管轄している。CRECは交通インフラの建設・コンサルティング等を手掛ける中国の持株企業で、2011年10月より開発を進め8.6億ドルもの大金を投資しているとのことだ。

もう一方の「3号線」は旧市街の地区にある「ハノイ駅」から東へ向かって伸びていき、日本人街として知られる「キンマー」や「ハノイ国家大学」などを経て終着駅となる「ニョン」まで、こちらも約13キロ・計12駅の構成となる。この3号線においては、フランス政府・フランス開発庁・フランス企業数社・アジア銀行・その他大手銀行などによって約7.8億 ユーロ(約8.6億ドル)が融資されているとのことだ。同じ地区の開発にもかかわらず、それぞれの線によって管轄する国が異なるというのも、ハノイ鉄道の面白い特徴のひとつであろう。

なお、運賃は「一ヶ月定期券が20万VND」「一日券が3万VND」「一回券が8000VND」と、かなりもとめやすい値段設定となっている(19年3月時点の情報)。空気汚染の元凶となる交通渋滞を防ぐこと、すなわちバスやバイクに乗るのをやめてもらい電車に乗ってもらうことが目的のため、一般的なバス運賃(7000VND)とほとんど変わらず手頃な値段設定にしてあるようだ。

さて、このハノイ鉄道について深掘りしていくと、必ず話題となるものがある。それはつまり、「延期」である。ハノイ鉄道は度重なる延期を繰り返しているのだ。

元々、2A号線は19年12月の運行開始を予定していたが、20年1月に至るまで、信じがたいことに計9回もの延期が発表されているのだ。すべての延長理由を書き出していくとキリがないため一部割愛するが、初期設計が粗末であったため修正を行ったり、融資契約の取り決めや融資元の支払いに遅延が生じるなど、トラブルが山のように発生したため遅延に遅延が重なってしまったのだ。開発を行う中国企業の経験不足も相まって、思うように計画が進められなかったのも一因だという。19年年末に建設工事そのものは完了したが、これからフランスのコンサル機関の評価を受けることになるため、評価の結果によってはさらなる延期が発生しかねない。

3号線においては、ここ数年で追加融資・延期・運用距離の延伸が大量に発表されている。2010年末の完成だったものが、(元々完成するはずの)2010年の着工となり、それが15年・17年・21年・22年と延期が重なっているのだ。

延期にともないそれぞれ予算も拡大し続け、プロジェクト委員会はかなり狼狽しているようだ。現地のベトナム人でさえも最終的な運行開始時期が分からないほどで、延期に伴う混乱は今後も続くことになるだろう。

 

今後の展望として注目されるのは駅周辺のビジネス発展。新たなビジネスモデルも生まれてくる?

さて、ここまでホーチミンとハノイにおける鉄道計画の特徴を書き記してきた。それぞれ長短所があったと思うが、一旦運行が始まると、あることに注目が集まることになる。それは駅周辺のビジネスだ。

例えば、ホーチミンメトロの1号線においては、始発となる「ベンタイン駅」が建設中の商業ビルと結ばれることが決まっている。2013年の記事によると55階と48階建てのツインタワーからなるようで、19年12月には都市地下空間設計に関するコンペを国内外5社から募集すると発表された。それぞれの駅にこのような商業施設が完成されれば、雇用創生・消費促進などが相まって、さらなる経済効果が見込めるであろう。

また、電車が運行することはすなわち。企業も様々な形で新たなビジネスを行えることを意味する。車内・車体のラッピング・駅構内などで広告を打ち出すスペースが出現するだけではなく、駅構内では自動改札・券売機の設置を通じてIT技術企業が活躍する機会も必然と増えていくことになる。日本のSuica・ICOCAなどに代表されるようなキャッスレス系カードが作られれば、そのカードで買い物が行える加盟店が増えるかもしれないし、そうなればベトナムでのキャッシュレス化も加速していくだろう。

ベトナムのインフラ開発は、それすなわちベトナムのさらなる成長を意味している。十数年後にベトナム内の駅を訪れた時、今では信じられないような光景が広がっているかもしれない。

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Kazuki Hori

Kazuki Hori

「3度の飯より10度のプロレス」を謳う重症患者のプロレスファン。 2019年8月よりハノイにて留学を開始。 マーケティングの勉強をキッカケにVEHO Worksにインターンとして参加、PR BOXの管理を任され現在に至る。 好きなレスラーは”世界一性格の悪いプロレス王”こと”鈴木みのる”。

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